想像が創造を超える地

創作話を置いたり設定を語ったりするブログです。

我ら地球<チート>の子:第1章第3話「傷<ダメージ>と光」

【世界観】能力
ギイセでは、生命には必ず能力が備わっているという。
しかし、その能力を開花するには記憶世界に行って自分でその鍵を見つけなければならない。
記憶世界へ行く都合上、能力を開花させるにはある程度成長する必要がある。
異世界人が持っている能力は強力なものが多いが、その理由を知る者は少ない。
また、ごくまれに能力とは別の力が封印されている場合がある。
輝の闇を食らう光の力がいい例と言える。
ちなみに、能力とは別の力の場合は必ずしも記憶世界に行かなければならないという訳ではない。
能力を使う時は魔法同様、自身の心が鍵となる。






「一旦店へ!」

 俺たちはひとまず店へ戻り、扉を閉める。
 どうやら魔物に気付かれなかったようだが、時間の問題だ。

「どうする、あんなに魔物がいたらジウフするのにも時間がかかるだろうし」
「そもそもあれだけいたらオレの時間操作も上手くいくか分からないなぁ……」
「そんなことより、あたいの本返せよ」
「ああ、そうだったな」

 とりあえず、心に絵本を返す。
 そして心はその絵本を読み始めた。こんな時なのに、自由な奴だな。

「とりあえず、オイラの能力で外の状況を確認するよ」
「お前の能力って、外が見れる能力なのか?」
「ん、正確には自分から見て半径100kmまでの状況を記憶するというものなんだ。青木先生のより距離は短いけど、いつでも見返せるのは大きいね。……んっ」

 学はそっと目を閉じて集中する。
 しばらくして、学は口を開いた。

「な、王様が戦っているじゃないか!」
「王様が!?」
「王様がジウフとヤノリカヒっていう魔法を使いながら戦ってるよ! 事前にジウフを使わなきゃならないから不利な状態になってるね……」
「逆さに読むと光の矢か。しかし王様が戦うとは余程の事態なんだろうな」
「あいつら全員即死持ちなのがなぁ……。魔王もエグイ奴選んできたよな」
「あー、こんな時、死なせるんじゃなくて存在そのものを抹消する力があればなー」

 学が打開できそうな策を思い浮かべる。存在そのものを抹消か、確かにあるといいな。
 ん、待てよ。
 俺のスマホにある闇を食らう光でどうにかできるかもしれない。
 闇の魔王の手下のことだ、きっと奴らは闇の魔物だろう。
 もし闇を食らう光に闇の体を食らう性質があれば、それは存在抹消と同じ意味になる、のかもしれない。

「……できるかもしれない。このスマホに眠る力で」
「輝、それってどういうことだ?」
「俺、記憶世界でカナヨっていう人が闇を食らう光の力をスマホに入れてくれたんだ。それで、あの魔物たちが闇の魔物なら、光で魔物の体を食べることができるかもしれないって訳だ。あの力がダメージじゃなくて抹消する力なら、即死魔法が発動せずに済むかもしれない」
「それで、そういう力だっていう自信はどこから来るんだ?」
「……俺の想像からかな」
「はぁ。……ま、このままじっとしてる訳にもいかないし。お前の賭け、信じてみるよ!」
「オイラも信じる!」
「……あぁ! この話良かった!」

 いい雰囲気を心がぶち壊す。本当、自由だな。

「そうと決まれば、早速外に出るぞ!」
「おーっ!」
「おー」

 俺たちは勢いよく扉を開け、外に出た。
 大規模な作戦のため、王様がいる城の近くへと向かった。もしものためのことを考えて、この作戦は王様に報告しなければ。
 王様がいる場所には、結と健たち一斑のメンバーがいた。皆、白いマントを着用している。

「待ってたよ! 意識統一の力で話は聞かせてもらったから、先に王様に報告しておいたよ!」
「そうか、助かる」
「……石橋 輝。お主が、あの伝説の力を使えるのだな?」
「はい。念のため、王様たちはお城へ避難してください」
「ああ。皆の者! 退避だ!」
「ははっ!」

 王様や兵士たちは急いで城へと避難する。
 そして俺たちは魔物の方を向く。

「頼むぜ、輝」
「ああ」

 俺はスマホを魔物の群れに向け、呪文を唱える。
 その時に、あの闇の魔物を食らいつくせ、関係の無い人を巻き込むなと、強く念じた。

「……リカヒノイアジっ!!」

「……」
「……」

 しかし、何も起こらなかった。くそっ、想像力か感情が足りないのか。
 これで相手が黙っている訳はなく、俺の呪文を聞いた魔物たちが次々と俺に襲い掛かってきた。

「止まれぇ!!」

 瞬が時間操作で襲い掛かってきた魔物を止める。ギリギリ、無事だ。

「助かった、瞬」
「オレが近づいた奴を止めるから、輝は呪文に集中だ!」
「ああ……!」

 再び、呪文を唱える。
 とてつもなく大きな光が、町ごと魔物を飲み込むように。
 とにかく、跡形もなく消え去れ、消え去れ消え去れ消え去れ!!

「リカヒノイアジぃぃいいっ!!!!」

 それでも、何も起こらない。
 今の俺には、使えないのか?
 そんなことを考えた時、右腕に強い痛みを感じた。
 この痛み、瞬から感じる!

「グァァアアアっ!! いてぇええ!!」

 瞬の右腕が魔物に噛みつかれ、苦しんでいた。
 その気持ちの揺らぎで時間操作の効果が消え、我に返った魔物たちが一斉に俺に向かってくる。
 ダメだ、こんなに来たらどうしようもない!

「ガハァア……!!」

 体の様々な部分を、噛みつかれる。
 とっさの判断でしゃがんで丸くなり、なんとかスマホを死守する。だが痛い。
 歯が深く刺さり、焼けるような痛みを感じる。
 異世界に来てなんとなく夢心地でいたが、この時に目の前にある死の恐怖を感じた。

 このままでは死ぬ! その前に、その前に! こいつらを倒さなければ!
 光を、光を! 目の前に光を!
 俺は、俺は生き残るんだ! 絶対に、生き残るんだ!!
 絶対に、この危機から脱出してやる!!

「リカヒノイアジ……っ!!」

 苦しみで声が小さくなってしまったが、形になるように呪文を唱えた!
 すると、スマホから小さな光が現れた!
 これだ、この光さえあれば!!

「いけぇぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 俺は全力で叫ぶ!

 まぶしい!
 いつの間にか、視界は光に包まれていた!
 痛みの中、深く刺さっていた歯の感覚が消えたのを感じる!
 それが分かった途端、俺は思わず恐怖を感じた。
 その恐怖が伝わったのか、光はスマホの中へと消えていった。

 文字通り、光は闇の魔物を食べてしまったのだ。それも一瞬で大群を。
 そして、紫だった空の色も元の青に戻った。

「やった……やったよ、輝!」
「あ、ああ……」
「すごい力だったよ! 何も見えなかったけど!」
「でも恐怖を感じた。だってあれだけの量の魔物を、一瞬で消し去ったんだぞ。普通じゃ、考えられない力だ……」
「いいんだよ、それで! だってお前のその力は正義として使っただろ? 悪である闇の魔物なんて消えちまっていいんだよ」
「そ、そうだな……」

 少し納得がいかないが、危機からの脱出はできたからいいとしよう。
 それにしても、これから死ぬ気で魔物と戦わなければならないのか。
 ピンチになってようやく発動する光なんて、下手すれば活躍する前に死ぬぞ。大丈夫か。
 死ぬと言えばこの痛み。立つことすらできない。
 そうだ、こんな時にあの魔法だ。

「瞬、ちょっと待ってろ。……クフイカ」

 優しく手当するイメージで回復魔法のクフイカを唱えた。
 力は弱いが、痛みが少しずつ消えていくのを感じる。
 制服も元に戻っていく。さすが時の魔法だ。
 ゆっくりと時間をかけて、俺と瞬の傷を完治させた。

「ありがとな輝! やっぱ魔法があると便利だな!」
「王様って奴に死んだ奴報告しねーとな」
「あ、そうだったな」

 忘れてた。本来は死んだ人の報告に外に出たんだった。
 俺たちは王様に報告するために城の中へ入った。

 入り口にいた兵士が謁見の間へと案内してくれた。
 王様は、俺たちを歓迎した。

「さきほどの光景、監視魔法で観察していた。国王として町を救ってくれたことに感謝する。そして輝よ、お主の闇を食らう光の力は素晴らしい。これからも、悪を滅ぼすためにその力を使うのだ」
「はい、ありがとうございます」

 俺はそのままお辞儀をした。なんだか、最初に会った時よりも緊張する。

「ですが、申し訳ないことに犠牲者が出てしまいまして……。魔法屋で、客が魔物の即死魔法で死んでしまいました」
「ふむ、そうか……。しかし、お主たちは町を、城を救った。それだけで十分だ」
「……はい」
「それで、王様さ、この絵本読んだことあるか?」
「おい心……!」

 王様の前でもこの態度、心の心はどうなっている。

「おお、これは『ミヤ、なかないで』じゃないか。我も子どもの頃によく読んでもらったものだ。闇に包まれた世界に現れたのは我が子を想う温かい光……。光こそ、我々にとって身近で大切な存在だと感じさせてくれる」
「おめぇは光信者か」
「そうだ。光使いの一人として、光を信じている。闇が敵となって襲ってきている今、光だけが希望なのだ」
「ふぅぅん……」

 心は少し不満そうに、絵本を下げた。
 言いたいこと言って少しは大人しくなったようだ。

「勇者たちよ、光を信じるのだ。信じる心は力になる。神頼みでもいい、とにかく強い思いを持つのだ。……お主たちの活躍、期待しているぞ」
「……はい!」

 俺たちは城を離れ、クラスの皆と合流するために宿屋へと向かっていった。