想像が創造を超える地

創作話を置いたり設定を語ったりするブログです。

我ら地球<チート>の子:第1章第1話「バスごと異世界<ギイセ>へ」

【前書き】

もう一人のクータ物語と平行して同じくギイセでのお話を。

完成するか分かりませんが石橋 輝という地球人(つまりギイセから見て異世界人)が異世界で過ごすお話です。

ある意味、異世界転移系のテンプレを意識してますが、話を書く練習ということで。

前書きここまで。それでは本編をお楽しみください。

 

 

 俺は石橋 輝、17歳。

 高校の郊外授業として山の方へと行くことになり、その道中で乗っていたバスが道から外れて落ちて、死んだはずだ。

 はずだ、と思っているのはあまりにも一瞬の出来事でハッキリと覚えていないからである。痛かったのかさえも覚えていない。

 今はただ、真っ暗な空間の中にいる。ここは、死後の世界なのだろうか。……と思っていたら、真上から光が差し込んできた。ま、まぶしい!

 

「成功だ! 成功したぞ!」

「おお、今度は大きな乗り物が付いてきたぞ!」

 

 気が付いたら俺はバスの座席に座っていた。窓を覗くと、そこは別世界が広がっていた。

 白い石の壁と床に、バスの下には青白く輝く魔法陣があった。

 ……ん、魔法陣?

 

「勇者たちよ、ようこそギイセへ!」

 

 頭の中に、男性の声が入り込んできた。な、なんじゃこりゃあ。

 バスに乗ってるクラスメートたちも驚いている。そりゃあいきなり頭の中に拒否できない声が綺麗に入り込んできたら驚くだろうな。

 

「ああ、驚かせてすまない。これはウイとという、君たちの言葉でいうテレパシーの魔法を使って話している。今回は人数が多いから、全員聞こえるようにして話しているのだ」

 

 ま、魔法!?

 これって、これって、もしかしてもしかするのか!? どこかで読んだことのある世界を想像していいのか!?

 オホンと咳払いの声が聞こえた後、男性は続けた。

 

「ここは異世界、ギイセだ。魔力と魔法の世界、ギイセだ。君たちの言葉で言うファンタジーの世界、ギイセだ。君たちを召喚したのは、闇の魔王イケトを倒してもらいたいからだ」

 

 魔法のあるファンタジーの世界、ギイセ。それを聞いただけでファンタジー好きの俺の心の高まりは、大きなエクスプロージョンが起きるほどに高まった。俺に魔法は使えるのか!? 俺はエクスプロージョンさせたいんだ!

 魔王? 知らんな。

 

「とにかく、君たちの能力が知りたいからその乗り物から降りてきてほしい。初めの活動に必要なお金は国が保証するぞ」

 

 お金も渡してくれるのか、なんて親切なんだ。

 運転手がバスのドアを開けると、俺含むクラスメートたちは急ぐようにバスから降りた。皆この世界を早く見たいのだろう。

 ここはどうやら大広間のようだ。部屋の中央に大きな魔法陣があり、その上にバスが乗っている。

 その他には多くの兵士とおそらくテレパシーを使ったと思われる白いローブを着て杖を持っている偉そうな魔法使い、そして王冠をかぶっている王様が護衛の兵士に守られながら立っている。そのほとんどの者の服や鎧が白い。城だけに白好きなのか?

 

「皆、ここは班ごとに整列しましょう!」

 

 黒い眼鏡とショートカットが特徴の担任、青木 瞳先生の指示に従って皆で王様に向かって整列した後、王様が口を開いた。

 

「我はリカヒ王国の国王、クナツ・ウヨイタだ。改めて、ようこそギイセへ。お主たちを勇者として歓迎する。……さて、これからお主たちには能力開花を行ってもらう。お主たちはギイセに来た時点で体に魔力が入り魔法を使えるようになっているが、お主たち……我々から見て言う『異世界人』には強力な能力が封印されている。能力は自身の記憶と感情でできた世界『記憶世界』で解き放つことができる。さあ、光の指輪を身に着け、光の転移陣で自らの記憶世界に入るがいい。そして能力を見つけてくるのだ」

 

 能力は自分で見つけて解放、か。鑑定してすぐ判明とかいうご都合展開にはならないか。

 

「それでは、一斑から順番に指輪を受け取って魔法陣に立ちましょう。……あの、私たちも入るのですか?」

「もちろん。お主たち大人にもちゃんと能力があるからな」

「よっしゃ! ……じゃなかった、分かりました、ありがとうございます!」

「わしはただバスを運転できれば十分なのだが……」

 

 そういえば、青木先生の他にも運転手もいるんだった。運転手の能力って地味に気になる。

 

「なあ輝、お前はどんな能力だったらいいなと思う? オレは時間操作系かな。相手を止めて集中攻撃とかしたいぜ」

 

 クラスメートで親友の川村 瞬が話しかけてきた。一つ結びにした長い黒髪が特徴的で、無邪気な笑顔が頭に残る。

 時間操作系はチート中のチートではないかと思う。相手が行動する前に攻撃できる可能性が高いのは強い!

 

「俺は……強い魔法が使えればそれでいいかな。だって現実で使えないはずの魔法が使えるんだぜ、それだけでありがたいと思うよ」

「それもそうだけど、オマエは謙虚な方だよな。もっと大きな夢を持ってみろって!」

「夢か。まあ、それもいいかもな。そうだな、俺はとりあえずリア充をエクスプロージョンさせる魔法があったらいいなと思う」

リア充よ、永遠に爆発しろ! リア充爆発! ……オマエの夢、小さいなぁ」

「いいんだよ、こういうので」

 

 そうこうしている内に俺たち三班の番がやってきた。

 兵士から光の指輪を渡され、身に着ける。

 そして、王様が作り出した小さな光の転移陣の上に立つ。

 すうっと、吸い込まれるように意識が遠のく。

 

 そして、気が付いたら昔の俺がいる世界に立っていた。ここが記憶世界か!

 ここは小学生の頃の俺の部屋だ。山積みされたゲームの箱に、たくさん描いた下手くそなモンスターの絵が散らばっている。よく友達とこの絵を基にしたオリジナルのカードゲームをしたっけ。バリアやら無敵やらメチャクチャなものだったけどな。

 昔の俺は勉強机に向かって新たなカードの絵を描いている……ように見えた。

 

「何……描いてるんだ?」

 

 思わず発してしまった。普段描かない女性の絵を描いていたからだ。

 すると昔の俺は振り向いて、こう返事した。

 

「ユメの中で会った人をかいてるんだ!」

「夢……? 俺、そんな夢見たっけ……」

「とってもキレイで、オレにイセカイへ行かせてくれるって約束してもらったんだ!」

「異世界!? 俺、本当に異世界へ来たんだぞ。そしてこの記憶世界に来て……」

「うん、知ってる! ここがキオクでできた世界ってのも、オレは分かってる! 夢を見た日から、ずっとずっと未来のオレが来るのを待ってたんだぞ!」

「待ってた?」

「うん! カナヨっていう女の人が、スマートフォンを持って闇を食べる光をイメージして『リカヒノイアジ』と唱えてって言ってたのを伝えるためにいるんだぞ!」

スマートフォンか……」

 

 俺はポケットに忍ばせていたスマホを取り出した。

 昔の俺は憧れのアイテムを見る目で、はしゃいでいる。

 

「すっげー! これEフォン!? にしてはデザインがちがうような」

 

 そっか、この頃のスマートフォンはEフォンが一番有名でこのスマホに近い形してるのか。

 

「これはEフォンじゃないけどまあ、スマートフォンだ。呪文はリカヒノイアジ……だっけ」

「うん」

「そして闇を食べる光か……想像しにくいけど、やってみるか。……リカヒノイアジ!」

 

 きっとこれが能力を開花させるものだろうと思って、呪文を唱える。

 するとスマホから光があふれ出して俺たちの周りに浮かび、輝く。

 薄暗くなってる押し入れの中が、はっきりと見えるようになる。俺たちから伸びている影が薄くなっていく。あらゆる闇が、弱まっていく。

 

「何これ、まぶしいんだが」

「オレにもわかんねぇよ……なんだこれ」

 

 しばらく輝いた後、突然光が消えた。そしてスマホの画面に長い茶髪の女性が映っていた。俺が思わず見とれてしまうほどの美人さんだった。

 

「初めまして。いや、久しぶり、輝。私はカナヨ・ツシンシ。スマートフォンに『闇を食らう光』の力を入れたわ」

「それじゃあ、これが俺の能力なのか?」

「それは違うわ。これは特別な力で、あなたが持つ能力とは別のものなの。様々な人々の中からあなたを選んで力を与えたのには理由があるの。あなたは想像力が豊かで、子どものような大人のような心を持っているの。心が、この力を扱う原動力で、あなたは力を正しく、そして強力に使えると判断したの。ギイセの女神、エマナと相談して決めたのよ」

「想像力が豊か……。俺、言うほど想像してないぞ?」

「そんなことない! オレがかいた絵を見てよ!」

 

 昔の俺が昔の絵を見せつける。下手な子どものラクガキにしか見えない。が、その量は半端じゃない。

 

「これも、これも、これも……! 全部オレが考えたやつなんだぜ!?」

「……昔は、よく想像して描いたものだったな」

「えっ、今は描いてないのか!?」

黒歴史を量産するのは勘弁って思ってからは描いてないな。全然絵が上手くなんねぇし、何よりネットで俺よりも遥かに上手い人、評価されてる人の創作見てからは萎えちゃってな……」

「そ、そんな……」

 

 昔の俺は思わず絵を持っていた両手を下げる。かなりショックだったのだろう。

 それを見たカナヨはフォローに入った。

 

「でも、想像力は今も昔も変わってないはずよ! 昔を、自分が熱心に考えていた頃を思い出せばきっと強い力になるはずよ!」

「そうだといいんだけどな。それで、どうして光の力が心と関係あるんだ?」

「それはね、全てのギイセの魔法は想像力と心によって生み出されるものだからよ。そして闇を食らう光は一二を争うほどの想像力と心が試される力なの。つまり、心で強さが決まる力って訳ね。ちなみに力自体はスマートフォンに入ってるから誰でも使えるんだけど、あなたみたいな資格のある人間以外が使ったら力が暴走しちゃうの」

「地味に重要な注意点だな……絶対に触らせないようにしないと」

「闇を食らう光を使う時は呪文が無くても使えるけど、力が安定しないわ。想像して、唱えるのが一番ベストな方法よ」

「ところでその呪文だが……」

 

 俺は気付いてしまった。この世界の言葉の法則に。禁断とも言えることを、口に出す。

 

「逆さに読むと『じあいのひかり』だよな。慈愛の光……どういうことなんだ?」

「ふふふ、気付いたわね。言葉を逆さにしてイメージすると魔力の変化が起きやすくなるの。慈愛の光っていう言葉はエマナが付けてくれたの。特別な力だから、簡単にイメージできない言葉にしてくれたのよ。闇を食らう光、そして慈愛の光……それを聞いて、輝はどう想像する?」

「そうだな……。親が子どもを救うために悪い闇をやっつけるような、そんなイメージが浮かぶな。あるいは、親が子どもの闇を包み込むような……」

「ふふふ、いい想像力ね。想像自体は平凡だけど、温かい。その心のある想像力が強さの鍵になるのよ」

「なるほど。参考になるな」

「……さて、そろそろ輝の能力を開花させなきゃね。例の物、持ってきてくれる?」

「うん!」

 

 昔の俺は勉強机の引き出しから、一枚の手作りカードを持ってきた。

 

「これ、覚えてるか?」

 

 このカード、よく覚えている。

 ファンタジーの世界が好きで、そして魔法が好きだった俺は、よくこのカードを使っていた。

 無敵ほどのチート能力じゃなかったが、力の底上げやいざという時の回復、先手を取ったり召喚したモンスターのサポートをしたりと役立ってくれた。

 

「無限MP化……行動に必要なMPを無限にすることでどんな行動でも起こせるようになる、オレにとっての相棒のカードだ」

「せいかい! オレの長年の夢は、無限に使える魔力で魔法を使うこと! そうだろ?」

「そうか……そうだったな!」

 

 リア充を爆発させるなんていう小さな夢じゃない、子どものオレはもっと大きな夢と想像を抱えていた! オレは今、とにかく魔法が使いたい!

 そう思った瞬間、光の指輪が光り出した。

 

「……光の指輪が光り出したということは、お別れの時間ね。あなたは無事に、無限魔力の力を手にしたわ。私はあなたのスマートフォンの中から見守っているわ。そして、記憶世界はいつでもあなたを歓迎するわ。心の中に入るように闇を食らう光を出せば、自分や人の記憶世界にも行けるから、有効活用してね」

「へへっ、バトルしたかったらいつでも来いよな!」

「おう、最後にものすごい情報出したな。機会があったらまた行くかもな!」

 

 そして俺は光に包まれ、気が付いたら大広間のさっき整列した場所に立っていた。

 もう皆は帰ってきたみたいだ。

 俺は無限魔力の力を得たが、皆はどんな能力を得たことやら。

 

「おかえり輝! なぁ聞いてくれよ! オレ、希望通り時間操作の能力を手に入れたぜ! 自分や相手の状態を生きている時間の中から自由に変化させるってやつだ! つまり、ずっと行動前の状態にすれば永遠に行動できなくなるし、お前をショタ化することだってできるんだぜ?」

 

 瞬が嬉しそうに話しかけてくる。なんで使用例で俺をショタ化しようとするんだ。

 

「え!? すげぇなオイ。俺は無限魔力だ。つまり、MPが無限だ、魔法が使い放題だ!」

「おおー、それもいいな。ていうかオレたちが持ってる能力って、チートじゃね?」

「そうだな、もしかしてこれ……異世界転移のチート系か? ハーレムはあるのか?」

「オマエはその気無いクセに、何ハーレム期待しちゃってるの?」

「期待なんかしてねぇし、あくまで予測だよ予測!」

 

 果たして、ハーレムはあるのか。俺はそんなの勘弁だけどな。愛するなら一人だけを永遠に愛し続けたいと思っている人だからな。

 

「さて、全員が揃ったところで報告をしてもらう」

「は、はい! それでは一斑……の前に、私たち大人から報告してもよろしいでしょうか?」

「うむ、いいだろう。名前と開花させた能力を申し出よ」

「はい! 私は青木 瞳、物体と時間の透視能力に目覚めました! 具体的には、壁の向こう側の物が見えたり、遠くの物を見つけたり、人の過去や未来が見えます!」

「僕は山本 翼。翼を好きな場所に出したり引っ込めたりすることができ、翼を得た者は空を飛べるようになり、地上を含む移動が素早くなります」

 「わしは植松 護。乗っている乗り物を無敵化する力を手にしましたぞ。これで交通事故に遭っても壊れないバスを運転できるようになりました。ありがたや……」

 

 運転手の言葉を聞いた途端、周りがざわつく。

 乗り物限定とはいえ、無敵になる力を得たのだ。つまり、乗り物に乗っている間は無敵同然であり、無敵の意味合いによっては一番強力な兵器と化す。なかなかの壊れっぷりだ。

 

「えっと、次は……一斑からですね」

 

 青木先生が仕切り直す。

 ここから先は長い時間が流れた。やはり、皆はチートと言える能力を手にしていた。二年A組の四十二名中、俺と瞬を除くとして、俺が覚えている限りではこんな感じだ。

 

 成績優秀、生徒会副会長の田中 結は能力も優秀だった。顔を知っている者の意識を結基準に統一させ、遠くからでも会話できたり行動を直接指示したり魔力をやり取りしたりできるらしい。操りというか、相手をほぼ自分のものにしてるというか。敵に回したくないタイプの能力だ。そして、闇が深そうだ。

 

 俺は名前を知っている程度だった坂本 創は、魔力を材料にして瞬時に物を作ることができるという。具体的には本人が知っているもの、想像できるものならば、何でも作れるらしい。本人さえ知らない中身などは、地球かギイセに存在する物の情報を自動で読み取り補完してくれるらしい。本人は夢が建築家だったそうでとても喜んでいた。

 

 不良系女子の小泉 心は、心臓やエンジンなどの動力源を操作することができる。つまり、ノーリスクで即死技が使えるということだ。パッと見、俺が即死魔法を使えたら俺の劣化になるように見えるが、王様曰く彼女の即死技と即死魔法の仕組みは別物らしく、即死魔法は相手の全ての魔力を魔法を使っても発動しない魔力、通称死の魔力に変えて殺すらしい。使い分けができるということだろうか。

 

 小学校からの幼馴染で野球坊主の藤枝 健は、身体強化の能力だった。自身の力を底なしに上げるというもので、記憶世界で母に「世界を真っ二つにしたら許さないからね!」と警告されたそう。世界を真っ二つ……どこかで見たことがあるシチュエーションだな。

 

 そうだな、俺の頭じゃこれぐらいだな。他にも使いようによっては魅力的に感じる能力があったはずだが、四十人以上もいたら覚えきれない。

 名前と能力の紹介が終わったところで、王様が再び口を開いた。

 

「さて、我はお主たちに魔王討伐を依頼する。初めの活動に必要なお金、1000E<エブ>を与えよう。一回の外食で10E、宿屋での一泊につき50Eと考えればしばらく生活できるだろうし、装備を整えることもできる。……言っておくが、依頼は強制ではない。討伐を望まないならばお金だけ貰って生活することもできるが、魔王が討伐されなければこの世は終わってしまうだろう。よく考えて、自分の進みたい道を選びなさい」

 

 命を懸けて魔王を倒すか、一時の平穏を保証するか。

 答えは決まっている。なんか、結の統一能力で皆の心が見えるぞ。

 

「魔王を倒します!」

 

 一般的に難しいイメージの魔王討伐でもチート持ち、しかも団体なら怖くない。そう思ったからこその決断だった。

 こうして、俺たちほぼ二年A組は、魔王討伐の冒険を始めることとなった!