想像が創造を超える地

創作話を置いたり設定を語ったりするブログです。

正義の闇~もう一人のクータ物語~その2

今後は前置きに代わって本編ではあまり語られない設定などを載せていきます。

【正義の闇:世界観メモ】異世界人

異世界人はギイセの人々よりも身体能力が高く、高度な技術を持っている。

大昔から細々と異世界人を召喚するということがあったが、十年前の魔王イケトの襲撃によって人手不足に陥った時にギイセの人々は藁にも縋る思いで異世界人を大量に召喚し、現在に至る。

その結果、世界中に異世界人の文明が知れ渡るようになる。異世界人の文明を取り入れているかどうかは地域によってまちまちである。

 

 

「輝さん、ありがとうございます、本当にクータを連れてきてくれるなんて……」

「礼には及ばないさ。さて、今日だけは親子水入らずってことでちょっと離れますかね。明日からは俺が付いてくるから、話したいことは今の内に話しておけよ?」

「うん、分かった」

 

輝はそっと、扉を閉じて自分の家へと帰っていた。

扉は残ったままだ、行こうと思えば自分から行くこともできるだろう。

 

「お母さん、お父さん! ぼく、二人に会うためにあちこち旅をしてきたんだよ! それでね、闇使いとしても成長したんだよ! えっと、それでね……うーんと、とにかく話しきれないや!」

「そう。たくさんあるのなら少しずつでいいわ。ところでクータ、輝さんから光を食らう闇の話は聞いてきたかしら?」

「うん、少しだけ聞いたよ。なんかぼくの力が暴走して世界の危機になるかもしれないほどのすごい力なのは分かったけど……」

「クータ、力を……闇の力を扱う時に一番大切なものは何だと思う?」

「一番大切なもの? うーん……魔力とか?」

 

闇の力を扱う時に大切なものなんて、ちゃんと考えたことが無かった。

おそらく、この答えは合っていないと、ぼく自身そう思っている。

 

「答えは『心』よ。光の力などの他の属性の力でも言えることなんだけど、魔法は心からできるものよ。例えば、ヤノミヤっていう呪文があるでしょう? それを唱える時は闇の矢のイメージをするとよりハッキリと出やすくなる……魔法を使う時の基本中の基本よね」

「うん、一本だけをイメージしたら一本だけ、たくさんイメージしたらたくさん出てくるよ」

「それに加えて、相手を攻撃するイメージを加えると勢いよく飛び、ただ遊ぶだけのものだとしたらゆらゆらと浮かぶものになるわね。さらに、その時の気持ちを加えると魔法もそれに応えるの。特に、クータの力はそれが大きく出てしまうの」

「そうだったんだ……!」

「だから、思いっきり笑って、思いっきり泣いて、自分が感じたままに闇の力を出せば、闇はそれに応えてくれるはずよ。でも、人を憎む時は一番力が暴走しやすいから、憎んだ時は慎重に扱うのよ?」

「うん、分かった!」

「クータ、お父さんからは光を憎むなというメッセージを贈るぞ。闇使いだから対の力である光を憎むことはあるかもしれないが、それは間違いだ。何せ、光も闇も、お互いが大切な存在であるからな」

「光も闇も、お互いが大切な存在……」

「そう。光と闇の関係性について、よく考えてみるんだ。そして、その答えを見つけるのはクータ自身だ。これから先、その関係性が重大な事になるかもしれないから、時々考えてみるんだ」

「うん!」

 

光と闇かぁ。

今までのぼくはただ、対の属性ってぐらいしか考えていなかった。

お父さんの言葉から考えると何か秘密がありそうだけど、何だろう?

闇だけではなくて、光を見れば何か分かるのかな?

光……そうだ、輝に頼めば光を見せてもらえるのかも!

明日になったら早速輝に頼んでみなきゃ!

今は、お母さんとお父さんと一緒にいたい。

 

「あのね、今度はぼくの話になるけど――」

 

今日は、お母さんとお父さんにぼくの旅の話をたくさん話した。

それでも話しきれないほど、ぼくの旅の思い出はたくさんあった。

そしていつの間にか、ぼくは眠ってしまっていた。

 

「うーん……あ、あれ、寝ちゃったんだ」

 

ひざかけが背中にかかってる。これだけでも、嬉しい。

 

「おはようクータ。よく眠れたかしら?」

「おはよう、お母さん、お父さん。おかげでぐっすり眠っちゃったよ」

「ははは、よく眠るのはいいことだ。さ、お母さんの朝ごはんが待ってるぞ」

 

久しぶりのお母さんが作った朝食。

手作りパンに手作りジャムにホットミルク……シンプルだけど、それがいい。

 

「いただきます!」

 

パンにジャムを塗って一口。懐かしくて、美味しい。

ホットミルクも一口。あったかくて、ほんのり甘い。

じっくり味わっている間に時間は過ぎて、朝食はあっという間に終わった。

また、ぼくの旅の話をしていると扉の向こう側から輝が現れた。

 

「朝食は食べたか? 今日は女神に会いに行くぞ」

「えっ、女神に!? 会いに行けるものなの?」

「ああ、このスマートフォンが女神が住む場所を繋いでくれる。……神聖なる空へと続く道よ、我の元に示せ……!」

 

輝はスマートフォンを扉にかざすと、スマートフォンからピロリンと音がして、扉から光があふれ出た。

 

「この扉の向こう側にこの世界……ギイセの女神であるエマナがいる。女神といっても、気を楽にしてていいからな。本人曰くそうしてほしい、だそうだ」

「分かった! ……それじゃあ、お母さん、お父さん、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい」

 

ぼくと輝は扉を開けて、向こう側の世界へと入っていった。

扉の先に広がった世界は、空と雲と白い柱に白い床。よく見ると、ところどころ黒い柱や床もある。

女神エマナは、白を基調とした家具が置いてある小さな空間の中にいて、ふわふわなソファーに座って待っていた。

エマナは白の長い髪に、これまた白を基調とした軽装備をしていた。よほど白が好きなんだろうか。

 

「あら、輝とクータね。よく来たわ、歓迎するわ」

 

エマナはそう言うと、小さなお菓子とお茶が入ったポットをテーブルの上に出した。

遠慮なくお菓子を一口食べると、ほどよい甘みが口の中に広がった。

 

 「エマナ、これから起きることについて話してほしい」

「……三つの危機は間もなく起こるわ。闇の危機はルヒ団の手によって起こされる。光の危機は魔王イケトの手によって起きる。そして正義の危機はクータが起こしてしまうの。けど、どの時間軸のクータなのかは分かっていないわ。ただ、他の時間軸のクータが侵略しに来る可能性は大きいと見ていいわ」

「やはり心配なのは正義の危機だな。クータの心次第でこの事態は大きく変わってしまう。ところでクータ、久々の両親はどうだったか」

「えっと、とにかく嬉しくて……あったかかったよ。心がぽかぽかする感じで……」

「うん、それでいい。見た限りは異常は無いようだな」

「クータ、私からも質問だけど、あなたにとっての宝物って何かしら?」

「宝物……。そうだなぁ、やっぱり家族、かな。お母さんとお父さんが何よりも大切で大事!」

「そうね、家族は大切よね。なら、闇はどうかしら?」

「闇も大切! ぼくは闇使いとして生きてるから、やっぱり大切だよ! でも、家族か闇かどっちか選べって言われたらやっぱり家族、かな……」

「でも、あなたから闇を切り離すことはできないわ。何せ、光を食らう闇、だからね。だから、あなたは闇で世界を、大切な家族を守ってほしいの。この三つの危機は、輝、クータ、あなたたちで乗り越えなければならないものなの」

「ぼくが……世界を?」

「そう。闇を食らう光と光を食らう闇……大きな力を持つ者の運命、役割よ。決して楽な道ではないわ」

「責任重大だね……ぼくなんかで大丈夫なのかな」

「クータ、あなたの夢はなんだったかしら?」

「え? ぼくの夢は……正義の闇のヒーローになることだけど……」

 

お母さんが昔言ってくれたんだ、闇もヒーローになれるって。

ぼくはその言葉をきっかけに、正義の闇のヒーローになるって思ったんだ。

 

「その夢を叶えられるいい機会だと思えば、いいんじゃないかしら?」

「うん……そうだね。ちょっぴり心配だけど、ぼく……正義の闇のヒーローになるよ!」

「闇でヒーローか。ダークヒーローとは違うのか?」

「だーくひーろー?」

「いや、知らないのならいいんだ。ともかく、誰かのために行動できるってのはいいことだ。俺も世界のために全力を尽くす」

「一度世界を救った輝がいるから、そこは心強いね! ぼくも輝から色々勉強しなくちゃなぁ……」

 

まだまだ、知りたいこと学びたいことがたくさんある。

輝みたいな救世主になるためにも色々学ばなくちゃ。

 

「それで、話に戻るけど、一番初めの危機、闇の危機は輝のスマートフォンのコピー機械であるヒノシカヒと起動に必要な闇の力によって引き起こされるわ。ルヒ団は今はそのどちらも手に入れていないけれども、最終的にはどちらも手に入れてしまうわ。それを防ぐには、ヒノシカヒを先に手に入れて光を食らう闇の力で壊す、あるいは団長のトイラ・ワトを説得させるかのどちらかしかないわ」

「ヒノシカヒは今どこにあるんだ?」

「リカヒ王国の隠し部屋に保管されているわ。私の力で転送させることはできるけど、守護者がいるから入手できるかどうかはあなたたち次第よ。それに、王国にバレたらタダじゃ済まないわね」

「リカヒ王国……ぼくの生まれ故郷だ」

「そのリカヒ王国の隠し部屋は、俺の顔でどうにか通してもらえないのか?」

「そうね、壊すためにヒノシカヒを手に入れるって知ったら国王は反対するでしょうね。闇を祓うために作られたものを闇によって壊すのだから余計にね」

「ということはヒノシカヒは入手困難か。……俺はトイラに会ったことがある。話を付けることができればヒノシカヒを手に入れるよりも説得の方が早そうだな」

「トイラってどんな人なの?」

「そうだな、彼は天才的な光使いだ。十年前の魔王軍との戦いの時も最前線で戦っていたんだ。俺はその時に出会い、協力し合ったのだが……闇をとても嫌っていたな。俺が出す闇属性の魔法でさえも嫌がっていた。きっとクータの闇もとても嫌うだろう」

「そんな……」

「ところでだ、ルヒ団は何のために活動をしているんだ? ヒノシカヒが必要らしいが……」

「世界から闇を無くすために活動しているわ。もし、世界から闇が無くなると……どうなるか分かるかしら?」

「光だけの世界になる……ということは闇が、影が見えなくなるということか」

「つまり、光で何も見えなくなる、世界から光が無くなると何も見えなくなるように、闇が無くなっても何も見えなくなってしまうの。ルヒ団の人たちはそれに気が付いていないのよ」

「そうか、ならそれに気が付くようにすれば説得はできそうだな。そうと決まればクータ、光を食らう闇の力の制御の特訓をするんだ。俺が闇を食らう光で世界を光で満たし、世界が光で満たされた時の恐怖を知ってもらった後にクータの光を食らう闇で元に戻す……この作戦でいきたい」

「分かった、光を食らう闇の力の制御の特訓だね。でも、どうすればいいのかな? お母さんは闇を扱うには心が大切だって言ってたけど……」

「そう、心はとても大切よ。誰かのためを思って力を出す時はとても強力だけど、簡単に出るものではないわね。だから、目をつぶって大切なものを思い浮かべるの。それだけでも力の制御のしやすさは段違いになるわ」

「目をつぶって、大切なものを……」

 

試しに、目をつぶって家族のことを思い浮かべてみた。

家族から光を守るために……そう思って、闇を練る。

 

「お、いい感じじゃないか。周りの光を食べてるぞ」

「あ……本当だ」

 

ぼくの周りに闇が漂い、そこにある光を食べるように闇が広がっていく。

 

「ねぇ、闇を戻すついでにぼくのお願いなんだけど、輝の光を見せてもらえないかな? 光と闇の光について考えたくて」

「ん? ……ああ、いいよ。……リカヒノイアジ!」

 

輝は闇を食らう光の力をスマートフォンから繰り出した。

昨日見た時は思わず身構えてしまったけど、今日はじっくり光を見つめる。

光と闇、お互いがお互いを食べて、消えていく。

見れば見るほど不思議な光景だ。

光と闇、仲が悪いように見えて、実は仲が良い、のかな。

そう思ったのは、光と闇が一緒になって消えていくのが反発しあったからではなくて溶け合っていくように見えたからだ。

もしそれが正しければ、光と闇はとても仲が良くて密接な関係であると言える。

どこまで密接な関係なのかは、まだ分からないが。

 

「どうだ、何か分かったか?」

「ありがとう! 少しだけ、分かったような気がするよ」

「そうそう、光を食らう闇にも呪文があって、それはミヤノツジンシって言うのよ。言った方が力が安定しやすいはずよ」

「ミヤノツジンシ……昔、お母さんから教えてもらったことがある。その時は唱えても何も起きなかったけど」

「何も起きなかったのは想像ができなかったせいかもしれないわね。ミヤノツジンシはその言葉だけでは想像できる呪文ではないから。それに、光を食らう闇といっても色々あるのよ? 目の前にある光を食べるだけではなくて、相手の心の光を食べたりするのよ。その上、闇は相手の心の中に潜り込んだり、心を動かす力があるの。とにかく心と強く繋がっていると言っても過言ではないわね」

「へぇ、そうなんだ……!」

「光もそうだな。ところで記憶世界って知ってるか? その人の記憶や感情でできた世界で、高度な光か闇の力で入ることができるんだ。記憶世界でその人の心を揺さぶることもできるから、時と場合によっては改心させるために入り込むってこともできる。これが今回の危機で役に立つかは分からないけどな」

「そんな世界があるんだ! どんな世界なのかちょっと気になるなぁ、ぼく自身の記憶世界に入ることはできるのかな?」

「できるわよ。ただし、脱出するには相応の闇の力が無いと無理ね。クータの場合は、記憶世界を行き来するための力の封印を解くことができれば大丈夫よ。そうね、せっかくだから記憶世界に入ってみない? きっといい成長に繋がると思うわ」

「そうなの!? それじゃあ入ってみようかな!」

「一応、クータを見守る役目として俺も付いていく。いいよな、クータ」

「うん!」

「それじゃあ、そこでじっとしてて。……二人を、クータの記憶世界へ!」

 

エマナは光の力でぼくたちを一瞬で記憶世界へと転送させた。

ぼくたちは、懐かしい家の中、それもぼくの部屋の中に立っていた。