想像が創造を超える地

創作話を置いたり設定を語ったりするブログです。

正義の闇~もう一人のクータ物語~その1

【前書き】
正義の闇という公開予定作品があるのですが、何せ合作なので本編そのまんま先に公開は合作と言えるのか?となってしまうので、本編とは別の時間軸……パラレルワールドのお話となります。
今作の主人公は本編と同様クータという少年です。
時々書き直すこともありますが仕様ということで。

前書きここまで、お話をお楽しみください。




困った。本当に困った。
五年前に離れ離れになった両親を探す旅を始めてからの初めての大問題だ。
お金も無い。食料も無い。人もいない。そしてここは森の中だ。
なんとかして、この状況から抜け出さなければ。
なんとか、なんとかしなければ。

「あ……!」

そんな時だった。
森の中に、一軒の家が見えたのは。
こんな森の中に? と思ったが、助かるかもしれないと思うと、こんなにも嬉しいことはない。
助けてもらえないという選択肢は捨てているぼくは、一直線に家へ向かって、インターホンを鳴らした。
ピンポーンと音がしてしばらく経った後、玄関の扉が開かれた。そこにいたのは青年だった。

「あ、あの……! 助けてください、ぼく、お金も食料も無くて……」
「ん……? あ、ああ、いいよ。とりあえず中に入りなよ」

あっさりと中に入ることができた。そして、温かいスープとパンを出してくれた。なんて優しい青年なんだ!

「ありがとうございます、助かりました……! ぼくはクータ・ツセンテって言います」
「ん、クータ? そうかクータか……。俺は石橋 輝、異世界人だ」
「いしばしひかるって……魔王イケトを倒した、あの輝!?」

石橋 輝。この世界、ギイセの中では最も有名な異世界人だ。
十年前、異世界の文明の品であるスマートフォンを片手に現れ、闇の魔王イケトとイケト率いる闇の魔物の軍を<闇を食らう光>の力で倒したという勇者だ。
でも、どうしてこんなところに?

「ああ。その通りだ。……ところで、お前から闇の力を感じるのだけど?」
「あ……。ぼくはその、闇使いなんです」

闇使いはその名の通り闇を扱う者のことだ。
十年前に闇の魔王イケトが現れてからは人々に闇は悪と思われるようになってしまい、肩身の狭い思いをして十年間を生きてきた。
結果、ぼくの幼少時代は友達ができずに人々から差別され、王様が『闇属性禁止令』なんて令を出したせいでぼくたち家族は生まれ故郷のリカヒ王国を離れなければならなくなった。
そして、その時に親とはぐれて今に至る。
こんなところでも、闇は嫌われるのだろうか。

「ふぅん、闇使いねぇ……。それにしては、隠し持ってる闇の量が多すぎる。……ちょっと、試してみるか」

輝はそう言うと、持っていたスマートフォンをぼくに向けて呪文を唱えた。

「闇を食らう光よ、目の前にある闇を食らえ……リカヒノイアジ!」

スマートフォンが光り、その光はぼく目がけて飛んでくる。
ぼくはとっさに身構え、無意識の内に闇を出す。
こんなところで、ぼくが持ってる大切な闇を食べられてたまるか!
そう、強く思ったのだ。

すると、不思議なことが起こった。
スマートフォンから出てる光と、ぼくから出てる闇がお互いを食べるようにして打ち消し合い、最後には何もなくなってしまった。

「やっぱりな。お前……<光を食らう闇>の力を持ってるな?」
「え? どういうこと?」
「伝説の力だ。闇を食らう光の力の対の力で、女神が言うにはその力を持つのはただ一人だという」
「それがぼくってことなの?」
「そうだ。そして、俺はお前の暴走を止める義務がある」
「暴走?」
「……こっちの話だ。見たところ、お前は暴走しそうにないな。ということは別の時間軸からか……」
「別の時間軸? そんなに独り言を言ってたら気になるじゃないか!」
「……まあ、いいか。女神からは秘密にしてろって言われてないし。いいか。この世界に今、三つの危機が迫っている」
「三つの危機?」
「闇の危機、光の危機、正義の危機だ。女神の予言によると、最後の正義の危機はクータ、お前の力によって引き起こされる」
「ぼくの力で……? ボクの力が暴走するってこと?」
「ああ。一番危ない危機だから女神が直々に俺に頼んだんだ、力が暴走した時は必ず止めるように、と」

女神直々に……世界を創った女神が頼むほどの危機ってことだ、ぼくの持つ力は予想以上に恐ろしいのだろう。
そう思うと、ぼくは力を誤って暴走させてしまわないか心配になってしまう。

「あの、この光を食らう闇の力って、勝手に暴走したりしないのかな?」
「力が暴走する時は本人が暴走している時だけらしい。つまり、平常心そのもののお前には暴走の心配などないってことだ」
「そうなんだ……」
「だが、不安が残る。女神が言うには、ここ最近、別の時間軸の世界同士が繋がり始めているそうだ。そこから暴走するお前がやってくる可能性もあるし、別の時間軸に影響されてお前が暴走してしまう可能性もある。そこでだ、今日からお前の面倒は俺が見ることにする」
「え!? で、でもぼくは両親を探す旅が……」
「……お前の両親の居場所なら、知っているが?」
「え、なんで!?」
「暴走していなかったら、お前とその両親を会わせることになっていてな。お前に足りてないものを補充するためだ」
「足りてないもの?」
「心だ……」
「心? ぼくにはぼくなりの心があるはずだけど……」

心の形は歪かもしれないけどそれなりに育ったはずだ。

「お前の心は満たされていないんだ。お前、小さい頃に両親と離れ離れになっただろう? それに、友達もいない。お前はまだまだ、知らないものや経験が多すぎる。それも成長に大切な部分がだ」

輝の言う通りだった。ぼくの心は、経験は歪すぎた。
ぼくは親の愛を十分に受け取れきれなかった。ぼくは友達の良さを知らない、友達がなんなのかを知らない。
今こそ、ぼくが本当に成長する時なのかもしれない。

「それで……いつ会えるの?」
「今すぐにでもできる。もうお前の両親とのゲートは繋げてあるからな。さ、こっちに来な」
「う、うん……!」

緊張する。いざ会おうとなると緊張してしまう。
長かった両親探しの旅も、ついに終わりを迎える。
輝は扉が置いてあるだけの部屋へと案内した。
この扉の向こうに、ぼくの両親が!

ガチャっと扉を開けると、両親がいた。懐かしいお茶を淹れて、飲んでいた。

「お母さん、お父さん!」
「クータ? クータなのね?」
「……おかえりクータ。よく戻ってきたな、偉いぞ」
「会いたかったよ、お母さん、お父さん……!!」

ぼくはお母さんの胸に思いっきり飛び込んだ。温かい、心地よいぬくもりが広がる。

「あったかい……。へへへ……」

ぼくはひたすらに、今の幸せを噛みしめていた。
この時間が、ずっと続けばいいのにな……。