想像が創造を超える地

創作話を置いたり設定を語ったりするブログです。

我ら地球<チート>の子:第1章第2話「最初の敵は即死<スロコ>持ち」

【世界観】地球について
2017年9月頃の地球(日本基準)を基にしている。
日本では異世界転移系の物語が流行り、今も根強い人気らしい。
そのため、今回の異世界転移で「これは!?」と思った人も少なくはない。
ちなみに、自らトラックに轢かれるなどの自殺をしてもギイセに行くことはできない。無駄死にである。




「うむ、息の合った返答をありがとう。依頼を受けるということで我から助言を贈ろう」

 王様は続けて言う。

「ギイセへ転移した異世界人の体には、全ての魔法のもととなる無の魔力を多く含む。そのためお主たちは全ての属性の魔法が使える」

 全属性の魔法使用可はオマケのチートか、ありがたい。

「そして、身体能力はお主たちの方が上だ。その代わり、我々の方が多くの魔力を持っているがな」

 つまり、拳で語り合うのなら俺たちの方が強いって訳か。

「それと毒には気を付けろ。我々は自らの魔力で中和ができるが、お主たちはその能力を持っていないから直接毒の痛みを感じるだろう。ギイセの毒はお主たちの世界と比べると痛いそうだ、だから気を付けるのだ。……以上だ」

 この毒には注意したい。もし回復できるとしても、苦しむのは嫌だしな。
 戦うことよりも、毒を含む食べ物なんかは注意が必要だな。毒を含む物の知識はあっても損は無さそうだ。

 王様のアドバイスよりも、気になる点がある。
 それは団体行動をするにあたって「裏切り者」が出ないかどうかだ。
 単純に討伐チームから外れるのは構わない。だが、チート能力を持ってることをいいことに敵対してきたらどうする。チートとチートのぶつかり合いが始まってしまう。単純に、クラスメート同士のケンカは見たくないってのもある。
 そう思ってると俺の感情は、いや俺たちの感情は歪まされた。

「みんな! 最後まで魔王討伐に協力しようねー!」

 そう、ロングヘアな生徒会副会長の田中 結の意識統一能力だ。
 頼まれたことに嫌とは言えない彼女が魔王を倒すと意気込む限り、魔王討伐から逃れられない。
 これで裏切り者が出る心配はなくなったが、当分、半分コントロールされている状態になってしまったのだ。やっぱり、敵に回したら怖い。敵に回すことすらできない。
 副会長……やっぱり何か闇がありそうだな。

「それでは、行ってまいります」
「行ってらっしゃい。吉報を待っている」

 そうして、俺たちは城を出た。ちなみにバスは近くの草原まで転送魔法ウソンテで転送してもらえた。
 歩いてすぐに辿り着いたのはリカヒ城下町。昼なのに出歩く人が少ない。その少ない人たちは黒髪の人ばかりのような気がする。

「とりあえず魔法の知識を得るために本が見たい」
「それよりも装備だろ。自分の身を守る方が先だ」
「アイテムが見たいなぁ、あわよくばおみやげも買いたい」
「おみやげって……手荷物増えるだけだろ」

 最初に発言したのは俺、その次が野球坊主の藤枝 健、王道ファンタジーが好きな俺の幼馴染の島村 優、最後に健。

「おみやげに、私の物体強化能力で即死効果を付加させれば武器にもなるわよ」
「それって、手で触れて自滅とかは無いよな?」
「あっ。そこまで考えてなかった」

 優と健は幼馴染同士だからかよく会話をするようなしないような。

「そこまで! ここからは班ごとに分かれて行動しましょう」

 青木先生が仕切る。先生だからな。
 話し合いの結果、俺の班である三班は魔法屋で行くことになった。さあ、魔法の知識を得て魔法を使うぞ!

 入った魔法屋は想像以上に広く、まるで図書館のようだった。

 どうやら、この店には魔法の基礎知識を得られる学習本、魔力を増幅・回復させる本、記憶世界へ通じる道を開く本、読むだけで魔法が発動する本、そしてごく普通の絵本が置かれていた。
 何故絵本があるのだろう、親子に向けたものなのだろうか。

 とにかく、今は魔法の知識だ。この世界の魔法がどんなものなのかを知らなければ。呪文も知っておきたい。
 店の中を見る限り、立ち読みをしている者もいるので遠慮なく立ち読みさせてもらった。

 この世界の言葉は形が崩れた日本語でできていた。異世界感がなくてがっかりしたが、すぐに読めるのならまあいいかと受け入れた。
 とりあえず手にした本は『魔法の知識 本格入門~初心者も上級者も読みたい入門~』だ。魔法をよく知らないので、まずは入門から入るのが一番だと思ったからだ。

 まず、ギイセに存在する全ての物体、生命には魔力が含まれている。
 だが、全ての魔力を失う、つまり全てが死の魔力になってしまうと死んでしまう。
 その理由は、命に魔力が結び付けられているからだ。地球から来た俺たちの場合は魔力が結び付けられているのかは分からなかった。

 ギイセには光・闇・炎・風・水・地・雷・無の8つの属性があり、無属性だけを扱う者は無使い、無属性以外の特定の属性のみを扱う者は属性使いと呼ばれる。炎なら炎使いと言った具合だ。無属性を除く二種類以上の属性を扱う者は魔法使いと呼ばれる。
 特に重要なのは無属性で魔法の大半は無属性だが、それに関する資料は少ない。町などに伝わる言い伝えやら自分で考えた創作魔法やらで事足りているからだ。

 一例として、いくつかの無属性魔法が書いてあった。
 使えそうなのは回復魔法……正確には状態を怪我や故障の前の時間に戻す時の魔法『クフイカ』、相手の全ての魔力を死の魔力に変える即死魔法『スロコ』、光速の麻痺の波を敵に飛ばす『ミナノヒマ』辺りだろうか。
 しかしどれも想像力が試されるもので最初の内は効果が弱かったりして、スロコなんかはものすごい感情でなければ失敗するようだ。
 クラスメートたちの能力と被っている気がするが、使えないケースも考えて覚えておいた方がいいだろう。苗字が石橋なだけに、石橋を叩いて渡るように。

 そして、魔法のコツだが「魔法は心で始まり心で終わる。想像から始まり、感情で終わる」という言葉が大きく書いてあり、正確に出すには正確に想像すること、大きな力を出すには感情的になることと書いてあった。
 カナヨが言った通り、この世界の魔法は心が重要のようだ。
 そうなると、想像力のある者や感情豊かな者が有利ということになる。俺の無限魔力を無駄にしないためにも想像力を鍛えなければ。

 よし、買おう。まだ少ししか読んでないがこの量なら色々知識は得られそうだ。パラパラとめくってみたが属性呪文も載ってるし魔法を覚えるのにも良さそうだ。
 代金50Eを支払い、本を手にする。この買った時の充実感、たまんない!

 ん、なんか入り口が騒がしいな。
 そう思ってると、意識統一能力で他の人から見た情報が頭に入ってきた。

「けけけっ、闇の魔物様のおでましだぜ!」
「さあ、オレたちと戦え戦え!」

 闇の魔物! 魔王イケトの手下だな! そうなると敵だ、今すぐ行かなければ!

 走って入り口へ向かうと魔物たちと、瞬と、寝癖が気になる小池 学と、客たちがいた。
 魔物は大きな紫の蝙蝠の姿をしていて、バサバサと飛んでいた。

「あ、輝! ちょうどいい時に来た、これからアイツらを倒すところだ」
「それで、どうやって倒す?」
「決まってるだろ? アイツらの時を止めてオレや輝の呪文で倒す! 何かいい魔法覚えて来たか?」
「そうだな、即死魔法のスロコ辺りは使えるか分からないが……やってみる」

「きききっ、向こうが来ないならこっちからいくぜ!」

 魔物は俺たち目掛けて襲い掛かってくる。それを見た瞬は余裕そうに笑みを浮かべた。

「……動くな」

 瞬は手を魔物にかざし、一言を言い放つと魔物の時間は襲い掛かる前に戻った。
 同じ時間をループしているため、羽ばたくこともできずに床へと落ちていく。

「さぁ、今の内に!」
「おう、それじゃあいくぜ! ……スロコ!!!」

 強く、相手が死ぬ様を想像し、相手を絶対殺すという勢いで唱える。
 一匹だけ命中し、一瞬だけ闇のオーラのようなものが放出して、魔物は絶命した。

「やった、一匹命中した!」
「やったじゃん!」

 そう喜んでいた時だった。
 突然、近くにいた客が倒れたのだ。

「な、なんだ!?」

瞬は思わず、手を下げてしまう。すると魔物にかかっていた時間操作の効果は消え、気が付いた魔物は再びバサバサと飛び始めた。

「けけけ……いつの間にか仲間がやられていたが、効果が出たようだな!」
「オレたちにはな、即死魔法が埋め込まれていて死んだ時に発動するようになっているんだ!」
「何っ!?」
「……」

 つまり、俺は間接的に客を殺してしまったことになる。
 ……手が、震える。

「しかしおかしいな。お前たち、目の前にいたのに何故死んでないんだ? どうやら一人を除いて魔力は消滅したはずだが……」

 本に書いてあったことを思い出す。
 全ての魔力を失った時、死んでしまう。その理由は、命に魔力が結び付けられているからだということを。
 つまり、俺たちは地球で生まれたからか命に魔力が結び付けられていないのだ。それで、即死魔法では死なない体になっているのだ。

「けけけ、まあいい。このまま続けるか? 町の人々を殺してもいいのならな!」

 くっ、町民を人質にしやがって。
 これじゃあ思うように殺せない!

「そうか。なら、とりあえず止まっとけ」

 瞬が再び魔物の時間を止め、再び魔物たちが床に落ちていく。
 学が何かを思い出したかのように、俺たちに話しかけてきた。

「オイラ、本で見たぞ! 魔法を封じる魔法!」
「本当か!? それで、どんな魔法なんだ!?」
「確か、ジウフって書いてあったな。相手の体にお札を貼るような想像をするんだってさ!」
「よし、ジウフだな!」

 早速、俺と学でジウフを試してみる。

「ジウフ!」

 ペタリとお札を貼るような感覚で、唱える。
 俺は無事に貼ることができたが、学は失敗した。そうか、魔力が無かったんだよな。
 と、思っていたら、結の声が頭の中に聞こえてきた。

(こういう時は統一能力で魔力を分け与えるんだよ、輝!)

 そうか、そんなこともできるんだっけな。
 すっと、魔力を人に送るように想像する。

「感じる……力が湧いてくる!」
「これが、魔力……!」

 とりあえず二人に魔力を分け与え、俺と学は再びジウフの作業に戻った。これが地味な作業なんだよな。

 無事に作業を終え、俺たちは考えた。

「スロコだと発動するか不安定なんだよな」
「そういえば心がいるじゃん、あいつどこにいるんだよ……」
「あたいを呼んだか?」

 何冊かの絵本を抱えた小泉 心がやってきた。
 おい、それ買ったのか? 盗んできたのか?

「お前、即死能力あるだろ? あれであの魔物たちをやっつけてくれないか?」
「しゃあないなぁ……。使ってみたかったし、やってみっか」

 心は絵本を俺に押し付け、言葉を放つ。

「とりあえずその蝙蝠ズ、死ね」

 手をグーの形にすると魔物に……変化は無かった。

「おい、そこのロン毛。お前の力止めろよ、時間が進まねぇじゃねぇか」
「そ、そうか、時間ループしてるから死亡に時間差のある心臓止めだと変わんないのか、まいったなぁ」

 思わぬ弱点を知った瞬はとりあえず力を解除した。
 そして、心は再び言った。

「死ね」

 今度こそ、魔物たちの心臓が止まった。
 動きが止まった魔物を見て、俺は言い放った。

「魔王に言われてなのかは分からないが、関係の無い人の命まで奪おうとする奴は嫌いだ」

 手が、再び震える。
 何も考えずに間接的に人を殺してしまったのを悔やみ、俺たちは死亡者報告のために外へ出ていった。
 しかし、その出た外の光景は想像を絶するものだった。

「嘘だろ……」

 紫色の空に、先程の蝙蝠の魔物がうじゃうじゃと飛んでいたのだ。